2017年8月25日とっても晴れです。
8月に入ってからしばらくは涼しい日が続いていたものの、
ここ数日は暑かったり、
雨だったりで、気まぐれなお天気が続いております。
本日の午後、牛舎の方をチェックしにいくと、
お散歩している仔牛ちゃんに遭遇。
脱走兵かな?
なんだ、クララさん(愛称)じゃないか~。
このクララさん、
お腹にいるときから大きかったからか、
結構な難産で産まれてきて、
そのせいなのかなんなのか、
なかなか一人で上手に立って歩くことができない仔牛ちゃんでした。
歩くのが下手なのでクララさんと呼んでます。
(安易な名づけ方!)
↑前足のつま先で上手に立てないので無理やりリハビリをしていた生後すぐの頃。
すぐつま先を内側に丸め込んでしまう…。
なので、小さなときから練習のためちょくちょくお散歩させていた子です。
今でも放っておいても遠くまでいかずに自分のハッチとお外をいったりきたりしているだけなので、
今日も朝から自由行動をさせてあげていたそう。
↓生後3週間頃の、一人だけハッチを出て自由行動をしているクララさん。
まだちょっと変な感じだけど上手に立てるようになった~。
この方、歩くのが下手なだけでなく、
性格もかなり、おっとりのんびり(いつもぼーっとしている…)、それから無口。
そして甘ったれ。
離乳のための飼料が好きではないらしく、
なかなかミルクが辞められず苦労したそう。
水はバケツから飲むくせに
バケツのミルクを飲むときは哺乳用ちくびを求めてくるという姫っぷり。
このちくびをバケツに入れて、ストローみたいにしてミルクを飲んでいました~。
(今は無事離乳したとのこと!成長したね!!)
仔牛担当の愛美ちゃんと母さとみさんの手を煩わせるかわいいヤツです。
↓鼻の周りがなんだか汚い、というか線になっているのはバケツに顔を突っ込んでミルクを飲んでいたからだと思います~。
と、思いがけずクララさんに会ってしまったのでクララさんの紹介になってしまいましたが、
今日の主役は彼女ではなく、タイトルどおり1025番のおばあちゃん牛のこと。
実は昨日からこの1025番のお話を書こうと、少しブログの下書きをしていて、
「がんばれ!1025番のおばあちゃん牛。」
ってタイトルにしようと思っていたんです。
今日の午前中までその1025番のおばあちゃん牛がいた場所。
(この場所を見に行こうとしたらクララさんがいたので話が脱線しました、すみません…)
今朝まではここに、こんな感じで1025番の牛さんが寝そべっておりました。
水飲み用のバケツは巨大なやつ3つ常備。
すぐ飲み切っちゃう。
彼女は2009年4月生まれの8歳。
井上牧場では上から4番目の、年配の牛さんです。
先日、8月17日に、7回めの出産をしました~。
7回の出産は、平均産次数が3~4頭とも言われる今の酪農業界では結構多い方だと思います。
でもこの7回目の出産の後、いわゆる「起立不能」になってしまったので、
他の牛さんたちとは離れ、1週間ほどこの場所で過ごしておりました~。
(産後に立てなくなる起立不能の症状は、そう珍しいことではないそう。
残念なことに井上牧場でも年に何頭かおります。)
↓これは8月23日の写真。
暑そうだし虫がくるしで背中にタオルをかけてもらってます。
全身ほぼ黒なので、太陽の熱も集めてしまうんでしょう~。
寝たきりの牛さんは間近に行っても逃げないし暴れないのでコミュニケーションがとれちゃう。
(という気がする。)
(というかたくさん触れちゃう。)
(でも本当は嫌がっているかもしれない…。)
実はこの方、昨年も真夏の7月に出産をしまして、
そのときも立てなくなってました。
↓これは昨年7月にお産した頃の写真。
今年と同じ状況じゃないか…笑
「そろそろ立たないと出しちゃうよ!」
(※出す、っていうのはつまり引退のことです。先日の記事「乳牛として生まれた牛さんの寿命を知っていますか?」でも紹介しましたが、乳牛として飼育している牛さんである以上、搾乳ができなくなれば「廃用牛」として処分するのが通常です。)
なんていう話をしていたのですが、その次の日。
見事に起立してました~!!
「そろそろ出しちゃうよ」の脅しが効いたのでしょうか?
日本語がわかるのかもしれませんね~。
あるいは、牛たちをはじめ動物たちには言語なんて関係なく、
こちらの伝えたいことや感情が伝わっているのかもしれません。
というわけで無事、
昨年の夏以降も引き続き井上牧場でお役目果たしてくれていて、
本日に至ったというわけです。
↑これは8月21日の1025番ですが、
立つことはできないものの、食欲はあるようで目の前の草を食べたり、
口元にバケツをもっていけば水を飲んだり、
私には元気そうな顔に見えたので、
去年みたいにちょっと休んだら元気になるかと思っていたのですが。
今年はダメだったみたいです。
昨日あたりからまた調子が悪くなったようで、
回復の見込みがないので「廃用」することに決めた様子。
本日の午前中の内に、「へい獣処理場」へといってしまいました。
私が最後に1025番に会ったのは一昨日の23日。
昨日も顔を見に行けばよかったな~。
すっかり元気になるもんだと思っていました。
挨拶ができず反省です。
1025番のように、病気で動けない牛さんは、「へい獣処理場」へ行くことになります。
正式には「化製場」と言うのかな?へい獣処理場、っていうのはもしかして昔の呼び方かもしれません。
井上牧場では行く先の処理場、お迎えのトラックのことを「へい獣さん」って呼んでいます。
「へい獣さん」に行く牛は、「産業廃棄物」として処理されることになります。
基本的には、死んでしまった牛さんがいくところです。
↓これがへい獣さんへ行くトラック。
クレーンで吊り上げてトラックにのせます。
繁殖が難しいとか、乳質や乳量などの都合で、
淘汰のために「廃用」するお母さん牛たちなら、お肉になる「屠畜場」へ行くためのトラックへ、自分の足で歩いて乗っていきます。
安いけれども、お肉として買い取ってもらえるので、市場価値があるともいえます。
1025番の彼女は、今日の時点では命はあったけれど、
健康ではないし、歩くことができません。
そのため、「へい獣さん」へと送る段取りをすることになります。
獣医さんに確認をしてもらって「病畜」として手続きをしてもらい、薬を投与。
死亡した状態で運んだようです。
仔牛ちゃんなんかは、生きている状態で処理場へ運ぶこともあるようですが、
1025番のような大人の牛さんの場合は牧場で死亡させてから運ぶことが一般的なのかもしれません。
1025番のように、長くここで過ごしてくれた牛になるほど、お別れも悲しくなります。
出産も終わって、またお乳もたくさん出してくれるところだったのに。
牧場の人たちも悩んで決めたことだろうな~。
もしもう少し元気だったら、屠畜場へいってお肉になってもらうこともできたけれど、
今回はそれはできませんでした~。
でも、生まれてはじめて長い時間トラックにのって、牧場以外の場所へ連れていかれて辛い時間を過ごすなら、
生まれた牧場で最期を迎えられた方が、彼女たちにとっては気持ちが楽だったりするのでしょうか。
それとも、乳牛から引退するときはお肉まで頂いて、命のすべてを糧にすることの方がずっと意味のあることなのでしょうか。
だとしたら、昨年の時点で次のお産は無理、ってことで、種付けはしないまま最後の搾乳サイクルにさせてもらえればよかったのでしょうか。
そしたら元気な状態で、屠畜場へ送り出すことができたのでしょうか。
酪農家さん、畜産農家さん、そこに関わる仕事をする人たちの悩みは計り知れません。
牧場経営を豊かに成立させるために、牛たちの命の売り買いや切り捨ては仕方ない、当然のことだっていうのが、今のところ大多数の感覚だろうな~と思います。
「お肉になるとき痛いかな…」
「毎年お産するの大変かな…」
「他の牧場へ売られるのは嫌かな…」
「いつも狭い場所で過ごすのは苦しいかな…」
牛たち1頭1頭の気持ちを考えて、いちいち悩んだり泣いてたりしたら経営にも支障が出るし、精神的にも負担が大きい。
そもそも牛たちの気持ちなんて、所詮想像でしかない。
愛玩動物の犬や猫とは違う、「牛は経済動物だから」と割り切る方が、よっぽど気持ちが楽なこと、すごくよくわかります。
それでも、部外者の私はまだまだ牛さんたちとのお別れに泣いたり、牛たちが暮らす社会、環境に悩んだりするんだろうな~。
少なくとも今のところ井上牧場に暮らす百数十頭のお別れに遭遇しなくちゃいけないと思うと…これはとても辛い…頑張ろう…。
そしてまだ引き続き、牛たちのお乳やお肉を頂いていきます。
まだ生きていたかったかな?
死ぬとき怖くなかったかな?
この数日は辛かったかな?
そもそも苦しい一生だったかな?
ありがとうね~1025番。
私たちの生活を支えてくれたことに、とっても感謝。
本当におつかれさま!!!